上体前傾はやっぱり大事

アイディア書き溜め

上手い人は前傾している。基礎でもアルペンでも。

基礎スキー技術論では殆ど言及されないが、「上手い人」は例外なく、上体を前傾させている。

低速時でもある程度の前傾は見られるし、高速になればなるほど、はっきりわかるぐらい大きく前傾している。

逆に、ターンがどことなく「軽い」印象を与える人は、上体が直立気味で前傾していないことが多い。

私も、どこで刷り込まれたのは定かでないが、昔は「上体は前傾させすぎてはダメだ」という先入観に囚われていて、スピードに対して適切な前傾姿勢を取れていなかった。

上体を前傾させることの意味

ここからは私の現時点での考えになる。

上体を前傾させることの意味、上体前傾の目的は、「スキーと連結された一連の物体(いわゆる「スキー・スキーヤー系」。以下SS系)の質量が分布する領域を、できるだけ小さな空間内にまとめ、かつその空間内での質量分布が可能な限り均一になるようにする」ことだ。簡易に表現すれば、体全体をひとまとまりの立方体もしくは球体に近づけるためと言ってもいい。

人間が直立した姿勢というのは、足元から頭の先まで、百数十cmの範囲に、脚部・胴体・腕・頭部といった、それぞれ質量を持った身体部位が分布している。この、SS系の質量が分布している領域(今は縦方向について論じたが、横方向・奥行方向と3次元的にその領域は広がっている)を、ここでは仮に質量分布域と呼ぶことにしたい。

質量分布域が広いと、それぞれの身体部位が受ける力の大きさや向きがバラバラになりやすい。例えば、足元は大きな回転力を得ているのに上半身は回転力を得ていない、足元は加速/減速しているのに上半身はそれに追随できていない、などといった状況が発生しやすい。

これを解消するために、SS系の質量を一箇所に集め、質量分布域を狭い範囲にまとめたい。その最も現実的に有効な方法が、重心を下げることである。いわば、重心を下げることでスキーと体が一体となる効果が得られるのである。

結果、ターンが「楽」になる。この「楽」とは負荷が低いという意味ではなく、技術的な難しさ、不安定さが軽減される、という意味だ。

重心を下げる=脚を曲げる、ではない。

直立している人に対して、何の説明も無しに「重心を下げて」と言うと、ほとんどの場合脚をまげてしゃがむのではないかと思う。

それも重心を下げる方法の一つだが、スキーにおいては脚(膝)を大きく曲げるのは、膝関節への負荷・怪我のリスクといった観点から望ましくない。また、高速滑走時に膝を大きく曲げた姿勢を取るのはそもそも難しい。

なので、膝を曲げるかわりに上半身を前傾することで重心位置を低くすることが現実的な解となる。

前傾を覚えるにはGSポールが最適。

前傾を「体で覚える」にはGSポールに入るのが最適だ。その理由は身も蓋もないが、前傾しないとポールにぶつかるから。

前傾すると腰が下がる?

「前傾すると腰が引けて後傾になる」というのは基礎スキー指導の「決まり文句」だ。

これは私に言わせれば本末転倒というか、因果関係の設定に間違いがある。

前傾すると腰が引けるのは、その人が持っている根本的な重心位置感覚が悪いからにすぎない。

人間の体は解剖学的に、前傾すると自動的に腰が引けるよな構造はしておらず、「重心位置を前傾する前の位置に保ちたい」という心理がそうさせているに過ぎない。直立して後傾の初心者が前傾しても後傾というのは「あるべき重心位置」を知らないからであり、前傾したせいではない。

まずは重心がセンターに置けているときの足裏感覚を低速で徹底して覚えさせ、滑走速度が上がっていくにつれて、そのときの足裏感覚をキープしたままで前傾姿勢(低重心姿勢)を取っていくように導くのが、理想的な指導方法となるだろう。