「ターン中は脚を長く見せる」とよく言うが…

アイディア書き溜め

「ターン中は脚を長く見せる」「高いところから荷重する」というのは日本基礎スキーの決まり文句的なフレーズだが、あまりこのことに固執するのはいい結果を生まないように思う。

「人体の都合」を無視して、力学的に言うならば、次のようなことが言える。

脚が長い姿勢とはすなわち重心が高い姿勢ということになる。重心が高い姿勢ということは、「重心位置が回転中心に近い」状態であり、「質量と角速度が同一であれば、回転半径が大きい方が強い遠心力を受ける」という物理の法則上、遠心力をあまり受けられない姿勢ということになる。遠心力を受けないというのは、向心力すなわち「曲がる力」を受けないというのと同義である。

もう少し実感覚に近い表現で言い換えると、スキーと腰(重心周辺の部位)が離れた状態になってしまうと、腰周辺の質量が集まっている部分は、板から「曲がる力」を受けられず、自由落下※1正確には慣性運動。それまで進行していた方向に進むこと。に近い状態になってしまう。それでも板はターンしているので、どこかのタイミングで自由落下している体と回転運動している板の軌道が交差し、板が体を「受け止めて」はくれるのだが、その「自由落下」と「板への着地(後)」のギャップ、運動方向の急激な変化が、連続ターンのスムーズな進行という意味合いからすると余計な要素になってしまう。

スキーヤーは切り替えの一瞬を除いて常にスキー板から「曲がる力」を受け取り続けたい。その「曲がる力の大きさ」は、切り替えでゼロに、ターンマキシマムで最大になるが、この間のいずれの地点においてもその力の大きさを急激に・デジタルに変化させること無く、サインカーブを描くようになめらかに・アナログに変化させたい。

「脚を長くしたい」と考えているスキーヤーも、同様に考えているだろう。そのため、上で述べた「自由落下(体)と回転運動(スキー)の交錯による衝撃」から「逃げよう」とする。つまり、回ってくる板に体が「ぶつからない」ように、板よりも内側へ内側へと体を入れようとする。その結果が、ターン後半まで体が谷に向かってこない、いわゆる内倒・ローテーションにつながるのである。

そのように、ターン中に抜重ならぬ「抜向心力」を起こさないためにも、ターン中の重心の位置は、「常に板から向心力(曲がる力)を受け取れる程度に低い」方が良い、というのが現時点での私の考えだ。

もっとも、「人体の都合」を考えるなら、重心が低い姿勢というのは単純に「きつい」ので、いついかなる時でも可能な限り重心を低くする、ということは難しいしやるべきでもないだろう。ロングクルージングで低重心姿勢を取り続ける人はいないことからもそれは明らかだ。

ワールドカップレーサーがターンマキシマムで高重心に見えるのも、高速・固いバーンという条件があるからで、そのような条件下で低重心を取ることはいかにフィジカルを鍛えていたとしても人体の許容限界を超えるし、そのような状況では重心を下げるまでもなく十分な向心力をスキーが生み、スキーを通してスキーヤーが受け取ることが可能だからだ。

   [ + ]

1. 正確には慣性運動。それまで進行していた方向に進むこと。