かぐらアンビバレンツ

スキー場を語る

かぐらスキー場。

国内屈指のロングシーズン、具体的には11月下旬から5月末までの実に約半年間を雪上で過ごすことができる名スキー場だ。

私にとってこのスキー場は、単純に「好き」とも「嫌い」とも言えない、言わば愛憎入り混じった複雑な感情を想起させるスキー場である。

かぐらスキー場の素晴らしいところ

かぐらが誇るロングシーズンは、ただ自然環境に頼って成り立っているだけのものではない。

神楽魂という言葉がある。これは何を意味するのかというと、現地スタッフの滑走環境確保のための血の滲むような努力のことを指す。積雪が増大する厳冬期に、ゲレンデ外の土地に大量の「雪のストック」を作っておき、雪が減っていく春の記事にこれをコース上に「雪出し」する。雪出し自体はどこのスキー場でも行っている作業だが、かぐらの場合そのスケールが段違いなのである。通常、雪出しと言えばコース脇の雪が無くなってもかまわない箇所の雪をコース上に移す程度。雪出しに備えて重機で巨大な「雪山」を作るようなスキー場は他に類を見ない。

バックカントリーに関する取り組みでも、かぐらは先を行っている。スキー場トップに架かるかぐら第5ロマンスリフト、通称5ロマの降り場に、「KG」と呼ばれるゲートを設置し、入山者を逐一チェック、登山届の提出を受け付けている。気象条件が悪くなればゲートはクローズし、入山を禁止する。また、BCエリアのける危険地域(雪崩多発地帯、脱出困難地域など)の情報発信にも積極的だ。いざ遭難が発生すれば、スキー場管理区域外であってもレスキュー隊が出動する(最近は捜索に費やす労力に応じた金を遭難者から取るようになった)。

本来、管理区域外は文字通り、スキー場の外のタダの山にすぎないので、そこで誰が遭難しようと、スキー場としては関知する義務は無いのだが、ここまで積極的にバックカントリーへのコミットメントを行っているスキー場といったら、日本ではニセコとこのかぐらぐらいではないかと思う。

スタッフの態度も気持ちが良いものだ。リフトオペレーターはもちろん、ゲレ食スタッフ一人一人に至るまで、来訪者をないがしろにするような接し方をするような者は皆無と言っていい。それは、「お客様に対する態度」というよりは「雪を愛する同志に対する態度」というもののように感じられる、と言えば言い過ぎになるだろうか。

ただ、あえて言うなら、マナーやルールから逸脱した人に対しては時として毅然と対する必要もあると思うのだが、そういう観点には欠けているように思える。まあこれは、ほとんど全ての日本企業に欠けていることではあるが…。

ともあれ、かぐらに滑りに来て、そこで働く「人」に対して尊敬や賞賛の思いを抱くことはあれども、不満や憤慨といったものを抱くことはほとんど無いと言ってよい。

かぐらスキー場の不満なところ

かぐらスキー場に対して私が不満を抱くところは、一つの言葉でまとめるならば、キャパシティ不足ということだ。

それはスキー場に着く前から始まる。越後湯沢駅とスキー場を結ぶシャトルバスは、有料であるにもかかわらず車両は通常の路線バス仕様。つまり乗客は自力で車内に荷物を持ち込み、到着までの2~30分間保持し続けなければならない。運良く座れればまだいいが、立ちの場合は結構な労力である。混雑も常態化しており、最繁忙期には30分前にバス停に並ばなければ積み残しを覚悟しなければならない。そして増車や臨時増便も期待できない。同じことはスキー場から駅への帰路でも起きている。

私はこれに辟易して、今では駅との間はタクシーを使うようになった。

次に直面するのが貧弱なベースステーションの設備である。多くの利用者がエントリーに使うみつまたステーションの建物はプレハブに毛が生えたようなもので、更衣室は狭く、ロッカーは更衣室の外にしかない。数も少なく、出遅れるとなんと屋外に設置されているロッカーに荷物をしまわなければならない。

リフト券売り場。これは日本全国どこのスキー場でもそうだが、効率化や自動化という言葉と無縁で、延々並ばなければならない。人によってはクーポンだの割引だので発券まで余計な時間がかかり、一人あたりを処理するための所要時間も長い。Webチケットシステムもあるようだが、最終的にはやはりリフト券売り場に購入証明となるQRコードを提示しなければならないので、時短の役には立たない。

ある日のかぐらスキー場リフト売り場の行列。
ある日のかぐらスキー場リフト売り場の行列。

みつまたステーションからメインゲレンデに上がるには、ロープウェイ、リフト、ゴンドラと乗り継ぐ必要がある。繁忙期※1ちなみにかぐらの「繁忙期」とは、シーズンイン直後の11月下旬から12月中旬、および4月以降の他のスキー場が営業していない時期のことを指す。には、最初のロープウェイ乗車で長時間の待ちが生じる。搬器を、現在の101人乗りから湯沢高原などで運用されている144人乗りの大型なものに更新すれば幾分マシになるだろうが…。

そしてゲレ食。休日であれば、遅くとも11時までには入らないと席の確保はおぼつかない。私はカロリーメイト持参でしのぐのがいつものパターンだ。

リフトは、メインリフトであるかぐら第1高速リフト(通称1高)の混雑が目立つが、最近は混雑時には並走するかぐら第3ロマンスリフト(低速ペアではあるが)を動かしてくれることが多くなっているようで、そこまで厳しい待ちを強いられることは少ない。むしろ、田代エリアにある田代第2ロマンスリフト(低速で距離も長い)や、田代第1高速リフト(人気のあるアリエスカコースに架かる)の混雑がひどい。

人気があればキャパ不足になるのは当然なのかもしれないが、現実としてかぐらスキー場という場所に「リゾート」という言葉は全く似合わないものになってしまっている。偏見かもしれないが、プリンスグループ=西武鉄道傘下ということで、いかにも鉄道会社っぽい、「混雑することは良いことだ」「キャパは不足するぐらいがちょうどいい」という発想で運営されているように思える。

 

総合すると、かぐらというスキー場は、「現場」の努力や意識は素晴らしいが、恐らく東京で行われているであろう「企画・経営」がダメダメなのだ。確かに、近年サマーゲレンデを整備したりと何もしていないわけではないのだが、「そういうことではないんだよなあ」と言いたくなる方向性にそのエネルギーが向けられている気がしてならない。

この「下(現場)は素晴らしいのに上(経営・企画)がダメ」という相反性というか二面性が、かぐらというスキー場に対して、「好きでも嫌いでもない」というのとは全く異なる、「好きであり、嫌いでもある」というアンビバレントな感情を抱かせるのである。

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1. ちなみにかぐらの「繁忙期」とは、シーズンイン直後の11月下旬から12月中旬、および4月以降の他のスキー場が営業していない時期のことを指す。

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