ゲレンデでの接触事故について
恥ずかしながら、ゲレンデでの接触事故については被害者になったことも加害者になってしまったこともある。
幸い、自分や相手が怪我をしたり、道具が破損したりするような事態に発展したことは無いが、それでも事故が起きた後は気分が沈み、滑ろうという気持ちが一気に萎えてしまうことに変わりは無い。
これまでで一番印象に残っている事故は、自分が当事者になったものではない。
石打丸山の中斜面で、上から滑ってきた大人が子供(4~5歳ぐらい)に激突するのをリフトの上から目撃。リフトを降りてすぐに現場に行き、パトロールが着くまでの間、安全確保をしていたが、あたり一面に道具が散乱し、子供は泣きわめき、ぶつかった方が真っ青になっているしで、本当にいたたまれなかった。事故はどちらも不幸にするということが、あのとき改めてはっきりとわかった。
事故を防ぐにはどうしたらいいか。もちろん注意力不足、安全意識不足も事故の要因ではあろうが、十分に注意していてもなお事故が起こることはある。それはなぜなのかを知ることが、安全確保に役立つと思う。
コリジョンコース現象
交通事故の発生原因としてよく指摘されるコリジョンコース現象は、ゲレンデでも頻繁に起こる。一方がフォールラインに向かって直滑降気味に、もう一方が斜滑降などで斜面を横切るように動いているときに発生する。視覚的に相手が「動いていない」ように見えるので、どんなに注意を払おうと努力しても、そもそも「注意の対象」から外れてしまうのだ。
もちろん「過失責任」は追突した側にあるが、責任が無いからといってぶつかられてもかまわないという人はいないだろう。斜面を横切るようにして滑ることが多い初心者・初級者は、このことを理解して斜面上方を頻繁に確認する癖をつけることが、安全に寄与する。
「見ているものに引きつけられる」現象
人は、見ているもの、視点を合わせているものに引きつけられる。ツリーランなどでは「木を見るな、木の間を見ろ」と言われるのもそれが理由だ。
「あの人に注意しないとなー」と思って、人を見ていると、知らず知らずのうちにその人に向かって滑っていってしまうという矛盾する現象がある。注意力・観察力の高い人でも、ときに事故を起こしてしまうのはこういったところにも要因があると思う。
見ていると引きつけられるからといって、視線を外してしまうと対象の予期せぬ動きに対応できない。常にゲレンデを「全体的に」見渡すことが有効だが、自分も移動している中でそれを行うのは、後述する視野範囲の関係もあり、極めて困難だ。
「危険かもしれない人」を見たら、十分な減速または停止を行うのが、唯一確実な安全策と考えるべきだろう。
また、同じ理由により、「ぶつかりそうになったときにかわす」という行為も、想像以上に難しい。人間、ぶつかりそうになったら当然その相手を注視する。注視しているので、かわそうとしてもどうしてもその相手に向かっていってしまうのだ。ひとたび相手との距離が想定以上に縮まったことを検知したら、かわすことではなく減速し停止することを考えるべきだろう。その方が、不幸にして衝突してしまった場合の衝撃も小さくすることができる。
速度と視野の関係
動体視力という言葉がある。一般的には「動いているものを見る力」として理解されているが、「自分が動いているとき」の視力もまた動体視力である。JAFによると、動体視力は通常視力より5~10%低下すると言われている。
また、それ以上に問題なのが、静止しているときと動いているときの視野範囲の差だ。
同じくJAFによると、40km/hで進行している場合の視野範囲は100度、130km/hでは30度の範囲にまで狭まるという。通常時の人間の視野角は180~200度なので、「滑りながら見る」ということがいかに制約を食らうかがわかるだろう。
このことは、「滑り出す前の観察」がいかに重要かを示している。滑り出す前の、視力と視野範囲が十分に確保されている状況で、今ある危険だけでなく、これから生じるかもしれない危険(停まっているがこれから滑り出しそうな人、別コースからの合流、リフト降り場など)についても十分に考えて(想像して)から滑り出すこと。それが安全に寄与すると考える。
また、途中で曲がっているコースやロングコース、先の見えない落ち込みがあるコースなどは、これから滑る範囲を前もって停止状態で観察できないという点において、特にリスクが高いということを認識すべきだろう。
速度と衝突エネルギーの関係
衝突時の衝撃は、質量と、速度(双方が動いている場合は相対速度)の2乗に比例する。お互いの速度が出ていればいるほど、急速に危険性は増すわけだ。
スピードを出すことは、視野角を狭め、動体視力を低下させ、衝突時の衝撃も倍加させる。3つのリスクを同時に高める行為だということだ。また、逆に考えるならば、速度を緩めるだけで、事故の発生確率も、発生時の被害も軽減することができるとも言える。
ここからは多少「お説教」めいた話になるが、許していただきたい。
スキー・スノーボードにおいて、スピードを出すということは実に簡単なことである。直滑降すればいいのだから。
言わせてもらえば、速いということは別に偉くもなければすごくもないんである。
アルペンレーサーが「すごい」のは、ポールで規制されたコースを速く滑れるからである。モーグラーが「すごい」のも、コブという究極の三次元的規制の中で速く滑れるからである。ラインもターンサイズも好きなように選べる状況で速く滑ったところで、何もすごくはない。
「すごく」なりたい、スキーヤー・スノーボーダーとして上のレベルを目指したいというのであれば、スクールなりレーシングチームなりの門をたたいてポールに入るか、もしくは誰も来ないような※1滑走が許可されていない、という意味ではない。難斜面に挑むべきだ。これはあるスキー教師の方の受け売りだが、「どう滑ったかではなく、どこを滑ったかが大事」。それができない状況、例えばシーズンイン直後で滑れるコースが緩斜面に限定されるというような状況であれば、それは天に与えられた「基礎を見直す」ための時間だと捉えればよい。
そして、初心者・初級者の方には、ぜひとも「上を見る」癖を身につけていただきたい。滑り出す前に上を見る、斜面を横切るときに上を見る、合流のときに上を見る、止まる前にも上を見る。もちろん100%必ず見るということは難しいだろうかあら、余裕があるときだけでもこのことを思い出してもらえれば、あなたの安全が大きく高まるはずだ。
1. | ↑ | 滑走が許可されていない、という意味ではない。 |
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