「スキーを前に動かす」の意味

2018年11月29日アイディア書き溜め

「スキーを横に押し出すだけではスキーを止めるエッジングになってしまいます。スキーを前に動かす(前に滑らせる、前に推進する、などとも)操作を身に付けましょう。」

これはスキー指導で頻出する「慣用表現」だ。これは具体的にどういうことを意味するのだろうか。

以下はすべて仮説です。

ターンマキシマムに向けて内傾角と角付けを深め、スキーを大きくたわませていくことで、角速度が上昇していくという話を前に書いた

この「角速度を上昇させる力(角加速度)」というのは、スキーの場合、「頭上」から吊られて動く円錐振り子とは逆に、足元のスキーから生じる。

その力が、剛体ではない(変形を許容する)物体である人体に伝わるにはタイムラグがある。身体の低い部位(スキーに近い部位)よりも、高い部位(スキーから遠い部位)の方が、より多くのタイムラグを生じる。

なので、このタイムラグを最小化する、あるいは打ち消すために、スキーヤーは自らの筋肉を使って、身体の各部位を「仮想上の吊り紐」を中心軸として回転させる必要がある。

この「仮想上の吊り紐」はパワーラインなどと呼ばれたりするが、一般に外スキーのブーツからスキーの面に対して垂直に立ち上り、外股関節と内肩を通る直線と一致することが望ましいとされる(体型や部位ごとの重量分布によっては異なる場合もある)。

その理想のポジションを取っている場合、外肩・外腰を進行方向へ、内腰・内脚を進行方向後方へ、それぞれ回転させることで、「スキーから人体への回転力伝達のタイムラグ」を縮小することができる。ここで各部位を過剰に、スキーの回転力を上回るほどに回転させてしまったり、パワーライン上に位置し本来回転させるべきでない「内肩」をも進行方向後方へ回転させてしまったりすると、いわゆるローテーションとなるものと考えられる。

この動きのことを、「スキーを前へ動かす」と表現しているのだというのが現時点での私の考えだ。言葉に反して実際には「スキーを」動かしているわけではない、ということがわかる。

スキーではなくスキーの上に乗っている体の方を動かしているのに、なぜそれが「スキーを動かす」感覚として感じられるのか。上記のような自発的な回転を行わない場合、人体が持つ「回転させられまいとする力※1正確には「回転力の変化に抗う力」であるが、ここでは角付けが深まり回転力が強化していく局面を論じているので、話をわかりやすくするためにこの表現とする。」すなわち慣性モーメントによって、スキーの回転力増加を打ち消す働きが生じる。「回転しようとするスキー」と「回転しまいとする体」の、いわば綱引きが行われ、スキーの回転力が減殺される。ここで、体を自発的に回転させることによって、スキーの回転力を減殺しないようにすることができる。この「回転力減殺効果の消失」が、スキーを前へとすすめている感覚として知覚されるのだと思う。

そして、慣性の法則により、腰・上体のウェイトバランスが大きい人(デブ)は、上方部位の慣性モーメントが大きい=回りにくいので、特にその自発的回転動作を強く行う必要があるということも言える。

   [ + ]

1. 正確には「回転力の変化に抗う力」であるが、ここでは角付けが深まり回転力が強化していく局面を論じているので、話をわかりやすくするためにこの表現とする。

2018年11月29日アイディア書き溜め