スキーに大きな力を伝える必要性

投稿者: | 2018年11月7日

よく、スキーにどうすれば大きな力が伝わるか、について議論の対象となる。

「母指球荷重ではなく踵荷重にすれば大きな力が伝わる」だとか「上下動をすれば大きな力た伝わる」だとかいろいろな視点があるが、それらの妥当性については今は扱わない。

ここでは「スキーに大きな力を伝える必要がなぜあるのか」について考えたい。

以下はすべて仮説です。

定説は「スキーを大きくたわませるため」だが、たわみ量の決定要因として「力の大きさ」の優先順位は高くなく(人間ほどの重量がある物体なら不足することは少ない)、他により大きな影響を与える要因があるということを、以前の記事で考察した(1)(2)

結論を言うと、スキーに大きな力を伝える能力というのは、すなわち「たわみを作る速さ」を向上する能力であるというのが現時点での私の考えだ。

また別の記事で、スキーを角付けしてから、たわみが生まれるまでの間には、スキーの剛性に応じたタイムラグがあるという点に触れた。簡単に繰り返すと、スキーには物体としてある程度の「固さ(変形しにくさ)」があるので、角付けによってスキーのセンター付近にスペース(「たわみしろ」)が生じてから、そのスペースを「埋める」ようにたわみが形成されるの間には、長かれ短かれ、必ずタイムラグがある、ということだ。

ゆっくりとスキーを角付けしていくときにはこのタイムラグはさほど問題にならないが、短時間に大きく角付けする場合には、単に傾いただけでは、角付けされたのにたわみができていない「スキマ時間」ができてしまう。この間というのは、遠心力と内傾角が釣り合わない不安定な状態なので、角付けしたらできるだけ速やかにたわみを形成させることが安定につながる。この目的を達成するため、脚部の伸展運動によってスキーを雪面に強く押し付け、スキマ時間を最小化する必要がある。これが、「荷重」に加えて板にプラスアルファの力を能動的に与える「加重」の技術の目的だ。

角付けからたわみ形成までのタイムラグが短ければ短いほど、ターンの中で最も深く傾く局面(ターンマキシマム)に到達するのに必要な合計時間も短くできるということで、すなわちターンスピードの向上、あるいはタイトなラインをクリアする能力の向上につながる。

素早くたわみを作りたいなら、剛性(正確にはフレックス剛性=たわみ剛性)の低い柔らかい板を使うという方法もあり得る。トーション剛性(=ねじれ剛性)との兼ね合いや、外乱(雪面の凹凸など)への耐性といった要因も絡むが、レーサーや上級スキーヤーがフレックス剛性の強い板を使う最大の理由は、たわみというものが「サイドカーブ半径縮小効果」をもたらすだけでなく、「エネルギー貯蔵庫」としての効果を持つからだろう。

スキー(のたわみ)は「板バネ」としての性質をもつ。スキーの剛性が強いということは弾性が強いということ、すなわち変形を加えたときに元の形状に戻ろうとする力が強いということだ。たわみとその解放は、変形とその復元ということで、エネルギーの貯蓄と放出として見ることができる。同じたわみ量であっても、「柔らかい」スキーより「固い」スキー板のほうが、強い力で復元しようとする。すなわち多くのエネルギーを貯蔵できるというわけだ。

曲がるという行為はどうしても減速を伴う。スキーヤーは重力によって加速されているので、ターンしたからといって必ずしも減速はしないが、その場合でも、加速に使えたはずのエネルギーの一部を曲がるために使ったことになるため、曲がらなかったときほどの加速は得られない。しかし、ターンの間に何らかの形でエネルギーを「貯蔵」しておくことができ、それをターンが終わったときに取り出すことができれば、減速分を完全に取り戻すには至らずとも、ある程度のスピードを取り戻すことができる。

この発想に基づき、スキーの中により多くのエネルギーを貯蔵しようとしたとき、たわみ量を大きくするか、フレックス剛性を高くする(弾性を強くする)かの選択肢があるわけだが、たわみ量は角付け量によって限界が規定されるので、フレックス剛性を高くするという手法が選ばれる。これが、レーサーや上級スキーヤーが固い板を使用する主な理由というわけだ。

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