「内傾角」と「角付け角」と「遠心力」の関係

投稿者: | 2018年10月29日

以下はすべて仮説です。

内傾角角付け角遠心力

この3つは、相互に関係し合っている。

まず、「初期状態」たるフラットな状況、すなわち内傾角も角付け角も遠心力もゼロの状況、典型的には直滑降している状況を想定する。ここからターン(ここでは話を単純化するため、横ずれの無いいわゆるフルカービングターンを想定する)を開始するには内傾角と角付け角を作り、遠心力を生み出さなければならない。

さて、この3つのうちどれを「最初に」作るべきか。遠心力は、ターンが始まった結果として生み出されるものなので除外される。「内傾角」を最初に作るのか「角付け」を最初に行うのか。「角付け」より先に、重心だけをターン(正確には「これからターンしたいと思う方向)に動かす(=内傾する)という方法でも、多くの場合ターンはできるが、一般には「角付け」を最初にするのが「正解」とされる。よく言う「足首から動かす」というのはそのことを示していると思われる。

どちらが「先」であれ、現実的事象としては、角付けと内傾はどちらか一方が発生すれば、連動してもう一方も発生する。人間の身体構造上、角付けを一切せずに内傾「のみ」するといことも、一切内傾せずに角付け「だけ」をするということも、不可能ではないにせよ、きわめて不自然な運動とならざるを得ないからだ。

なのでここでは、角付けと内傾どちらが先かという問題についてはひとまず「同時」という玉虫色の決着としておき、次に何が起こるか考えたい。角付けし内傾すると、スキーのサイドカーブの効果により、接地しているエッジの側に曲がる力が生じる。そして、それまでの直進運動が回転運動に遷移したことによって、遠心力が発生する。

直感的に分かる通り、強い遠心力が働いているほど深い内傾が可能になる。というより、強く遠心力が働くならばその分深く内傾しなければならない。そして、スキーを大きくたわませるという観点からすると、内傾角度とスキーの角付け角度は一致させるべきとなる(「スキーの真上に乗る」)。

すなわち、ひとたび遠心力が発生すれば、遠心力から最適な内傾角が導かれ、内傾角から最適な角付け角が導かれる。そしてスキーヤーは、こうして導かれた最適な内傾角と角付け角に、スキーと身体を合わせる(アジャストする)ように動くことが求められる。

整理すると、

遠心力→最適な内傾角の決定→最適な角付け角の決定→内傾角・角付け角のアジャスト

という因果関係が描けそうだ。

 

そのまま「等速回転運動」を続けるのであれば、このとき均衡した遠心力と内傾角と角付け角をそのままキープするのが最適解となるが、現実のスキーにおいてはスキーヤーは重力に引っ張られて落下を続けるので、これとは違う状況が生じる。

遠心力は、角速度の2乗に比例する。スキーヤーは何もしないでいると、重力によって加速する。加速することで角速度が増加し(ここでは加速してもターンサイズは同一であるものとする)、それにつれて遠心力も増加するので、それに合わせて内傾角を深くしていく必要がある。内傾角を深くするということは、角付けも深くするということになる。

しかしやがてターンは「山回り」に入り、加速が終わり減速が始まる。そうなったら今度は、内傾角を浅く、角付けも浅くしていく必要がある。

 

さて、ここまでで遠心力によって最適な内傾角と角付け角が導かれるということを書いてきたが、それでは内傾角や角付け角といったものは、受動的に「決められる」だけのもので、能動的に決めることはまったく不可能なのだろうか。

そんなことは無い、ということを多くのスキーヤーは知っているだろう。スキーヤーは、現在の遠心力によって決められる最適な内傾角よりも、深い内傾角や浅い内傾角に能動的に遷移していけるし、それができなければターンサイズを能動的に操作することもできない。

ここで重要になってくるのが、スキーの「たわみ」だ。スキー板は、たわむことで「実効サイドカーブ半径」を小さくすることができる。大きくたわむためには、前提条件としてたわみ先の「スペース」が必要になるので、ここで深い角付けの必要性が生じるという話は前の記事で書いた。また、板を効率よくたわませるためには角付けされたスキー(外スキー)の面に対して垂直に立ち上る線上に身体重心を置く必要があり、この観点で「内傾」が重要になるということも書いた。

スキーヤーは、遠心力と内傾角度と角付け角度の均衡が取れた状態から、能動的により深く角付けし、同時に角付けされたスキー板から垂直に立ち上る線上に重心が来るよう、内傾角をも深めることができる。こうすると、スキーにこれまでより大きなたわみが発生し、実効サイドカーブ半径が小さくなり、それまでより大きな「曲がる力」が発生し、角速度が上昇し、結果これまでより大きな遠心力が発生する。

能動的な角付け→角付けに合わせた内傾→より大きなたわみ(実効サイドカーブ半径縮小)→角速度の上昇→遠心力の増大

という、もう一つの因果関係が描ける。このサイクルは、論理的にはエッジが雪面をグリップできなくなるまで継続することができるが、現実には人体やマテリアルの構造によっても制限されるだろう。

これを1つ目の因果関係と組み合わせると、次のようになる。長くなるので縦並びとする。

能動的な角付け
  ↓
角付けに合わせた内傾
  ↓
より大きなたわみ(実効サイドカーブ半径縮小)
  ↓
角速度の上昇
  ↓
遠心力の増大
  ↓
最適な内傾角の決定
  ↓
最適な角付け角の決定
  ↓
内傾角・角付け角のアジャスト

つまり、スキーヤーが能動的に角付け・内傾を深めると、増大した遠心力に合わせて新たな「最適な内傾角」と「最適な角付け角」が決定され、スキーヤーはその新しい最適内傾角・最適角付け角に、身体とスキーをアジャストするということを行う。

その後、アジャストしてバランスが取れた状態をそのまま維持するか、それともここから再度、さらに能動的に角付けと内傾角を増していくかは、スキーヤーの選択に委ねられる。もし、さらに能動的に角付けと内傾を増していくならば、上記のサイクルが最初からもう一度繰り返されることになる。

この流れに加え、先に述べた、外的要因による増速・減速による遠心力の変化に対応するための内傾角と角付け角のコントロールも同時並行的に行っていかなければならない。

何か、ものすごく複雑な話になってきたが、まさにそのとおりで、スキーの滑走がいくら言葉を尽くしても、体験したことの無い人には絶対に理解できない類のものである理由は、このあたりにもあるのではないかと思う。

さて、ここで注目したいのは、それぞれの矢印の間にタイムラグはどの程度あるのか、ということだ。

「たわみ→角速度の上昇→遠心力の増大→最適な内傾角の決定→最適な角付け角の決定」の流れは、スキーヤーの意思や動作とは関係無く、力学の法則によって「自動的」に生まれる因果関係なので、タイムラグはゼロである。一方、「能動的な角付け→角付けに合わせた内傾」の間と、「角付けに合わせた内傾→たわみ」の間、そして「最適な角付け角の決定→内傾角・角付け角のアジャスト」の間にはそれぞれタイムラグが生じる。

「能動的な角付け→角付けに合わせた内傾」の間のタイムラグおよび「最適な角付け角の決定→内傾角・角付け角のアジャスト」の間のタイムラグは、身体動作のタイミング誤差によるタイムラグだ。運動のタイミングや量、身体部位の動作同調などによりこの誤差を最小化していくことがスキー習熟の一要素となるだろうし、実際に重要な課題として認識され言語化されている部分でもあると思う。

もう一つの「角付けに合わせた内傾→たわみ」の間のタイムラグは、それに比べてあまり注目されておらず、説明が必要かもしれない。

スキー板には素材と構造によって規定された剛性が存在するため、角付け・内傾して「スペース」を作っても、実際にそのスペースを「埋める」形でたわみが形成されるまでの間には、わずかながら時間がかかる。これを言い換えると、角付け・内傾しても遠心力が発生していない時間が存在する。発生した「スペース」の量が大きければ大きいほど、たわみが形成されるまでの時間は長くなる。このタイムラグのことを「たわみのタイムラグ」と呼ぶことにしたい。

かなり登場する要素が増えてきたので、ここまでをもう一度整理すると次のようになる。整理ついでに、各フェーズを「スキーヤーの動作」と「事象(自然の法則)」に分類した。

ここに「急激な角付け操作はNG」とされる理由がある。急激な角付け操作は、それだけ大きな「スペース」を発生させ、そこを「埋める」ようにたわみがされるまでに長い時間を要する。その間は、深まった角付け角・内傾角に釣り合うだけの遠心力がまだ発生していない、不安定な状況が続く。

その不安定な状況、上記のサイクルの中における「たわみのタイムラグ」を極力作らないためには、能動的な角付け・内傾はできるだけ「アナログに」行うことが求められる。すなわち、角付け・内傾を深めるときには、常にこれまでよりもごくわずかのみ深く角付け・内傾し、「たわんだ」ことを確認してから、さらに次の角付け・内傾に進む、というステップを忘れず、ターンリズムを速める際には一瞬で急激な角付けをするのではなく、このステップを回すサイクルを速めることで対応していくことが肝心、といったところだろうか。

そして、剛性が強く、たわむのに時間がかかる板を履いた状態でそのサイクルを速めるためには、正しい方向から正しい場所への荷重だけでは不十分で、「より強く踏むこと」つまり加重が求められる。ここに「強く踏む」ことの意義が見出される。

最後に補足しておくと、あえて「最適な内傾角・角付け角」から大きく外れた姿勢を取ることも、状況によっては当然にありえる。典型的なのはずらしでの操作を行うとき。またカービングターンでも、ターンから抜け出す準備動作として、角付けは維持しつつも内傾角のみを浅くする動作(以前の記事で触れた、切り替え準備としての外傾)もそうだ。要するに「スキーを大きくたわませる必要性の無い場面」では、角付け角と内傾角のシンクロをあえてさせないことは普通にあるということ。スキーに「唯一無二の正解」は無いのだ。


2018/10/30 一部加筆修正。

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