スキーを大きくたわませる条件とは

2018年12月14日アイディア書き溜め

この記事は古い版です。改訂版はこちら


以下はすべて仮説です。

まず、スキー板がたくさんたわむか、少ししかたわまないかを決定づける要因として、「スキー板にかける力の大きさ」というのはあまり影響が無いと考えている。

なぜか。スキー板というものは、レース用の「固い」とされるものも含めて、壁に立てかけて手で押せばたわむ程度の剛性しか持たない。人間の手で押す力などというのは、「脚で踏む力」に比べればはるかに小さいものだ。その小さな力でも簡単にたわむ物体の上に、全体重の半分以上を乗せて、そこに遠心力も加わり、さらに少し習熟したスキーヤーであれば自らの運動により能動的に加圧することも行っているのだから、力の大きさが不足してたわまない、などということは考えにくいのである。

トップレーサー向けに提供されているワンオフモデルとかは別かもしれないし、大人用のトップレーシングモデルを子供が使うなどといった極端な例もまた別の話だが、一般の市販モデルを成人が使用する限りにおいては、人間の体重ほどの物体が乗れば、たわむには十分な力を常に与えていると考えるべきだろう。

それでもスキー板がたわまない場合があるのはどういうことかというと、スキー板をたわませるためには「力の大きさ」よりも重要性が高い要素(条件)があるからだ。それは以下のものだ。

①たわむスペースを確保すること
②正しい方向から力をかけること
③正しい場所に力をかけること

以下、順番に説明していきたい。

①たわむスペースを確保すること

スキー板がたわむためには、「たわませる先」に障害物があってはならない。スキー板を床に置いて上から押しても、すぐに床に当たってしまってそれ以上たわまないというのと同じ、簡単な話だ。たわむ先にスペースを確保する必要がある。「たわみしろ」と言い換えてもいい。スキーの滑走の場面においてそのスペースは、角付けをすることによって作り出すことになる。

②正しい方向から力をかけること

具体的には、スキー板に対して、前後・左右ともに垂直な方向から力をかけること。スキーの滑走場面に照らし合わせて表現するならば、スキーヤーの身体重心が、ブーツとスキー板の接続点すなわちビンディングの位置を起点に、スキーの前後軸および左右軸両方に対して垂直になるように立ち上った線上に位置していること。

スキー板を壁に立てかけて手で押してたわませようとするとき、前後左右いずれかの斜め上から押すということは通常しないはずで、前後にも左右にも「真上」から押すはず。これと同じことだ。

この条件は、①の「たわむスペースを確保すること」とトレードオフの関係にあるのが面白い点で、いくらたわみ先にスペースを確保したいからといっても、スキーを角付けしすぎると、重心を板に対し垂直な場所に置けなくなる(無理に置こうとすると内倒する)ため逆効果になってしまう。①と②のバランスを探ることは、多くのスキーヤーにとって重要な課題になると言えるだろう。

③正しい場所に力をかけること

ここで言う正しい場所とは、板の前後方向中心軸上の場所を意味する。

スキー板を壁に立てかけて手で押してたわませようとするとき、わざわざエッジに近い「端っこ」の方を押す人はいないだろう。誰もが、中心に近い場所を押すはず。それと同じことだ。

内傾角が適切なのに、角付けを過剰に行ってしまうと、力がかかる先が板の前後軸上からインエッジ側にずれてしまい、板がたわみにくくなる。これが俗に言う「サイドカーブだけで曲がっている」状況である。また、これは個人的な推測だが、かつて盛んに言われた「面で滑る」という言葉も、最初にそれを唱えた人の真意としてはこのこと(インエッジに対してではなく前後中心軸に対して力をかけること)を意図していたのかもしれない。

「正しい場所」ということであればもう一つ、「前後方向のどのポイントに力をかけるか」すなわち、これもよく技術論の的になる「母指球荷重か踵荷重か」という話もしなければならないのかもしれないが、それについてはまた稿を改めることにしたい。

さて、以上3つの条件を挙げてきたが、では、あれほどスキー指導の現場で言われる「強くスキーを踏む」ことは、スキーをたわませるには不要のことなのだろうか?私はそうではないと思う。「強く踏む」ことは重要だが、それは「大きくたわませるため」ではない。では何のためなのか。それは「速くたわませるため」だというのが、目下の私の考えだ。

「速くたわませる」とはどういうことか、これを説明するにはまず、内傾角角付け角たわみ遠心力、これらの関係について整理する必要があるので、これまた稿を改めて考察したい。

2018年12月14日アイディア書き溜め